第8回 - 第28号 - 2002.1.1刊
アメリカ図書館の稀覯本

名誉教授 村瀬 勉

[図1]
 「所変われば品変わる」という故事のとおり、アメリカで図書館が違うと稀覯本の扱いに天と地の差があり驚きました。そのお話しをしましょう。

 ワシントンDCにあるカーネギー研究所におりましたとき、当時、マーク・トウィンについて修士論文を書いておりました娘に頼まれ、日本にないトウィンの本を国会図書館(The Library of Congress)で探すことになりました。たまたまでしょうか、そこで活字印刷術の発明家グーテンベルクの聖書の展示があり感動いたしました。

 目的の本は、簡単に見つかりましたが、稀覯本なので貸出しには特別の手続きが必要でした。閲覧室は金網の張った特別室、室外に係員が仕事をしながら座っています。複写機類によるコピーは駄目。筆写も鉛筆に限られます。したがって必要な部分を写すのに丸一日かかりました。稀覯本の扱いは日本でも大体同じです。東大図書館では、さらに白手袋をはめなくてはなりません。

[図2]

 研究がカーネギーからオレゴン大学に移りましたとき、その大学の図書館に行って「あっ」と声を出してしまいました。先ほどの稀覯本と同じものが無造作に開架の棚に置かれているではありませんか。一冊の本の価値付けがこんなにも図書館で違うものかと驚きました。その驚きが落ち着き、国会図書館の一日は何であったのか、いやいやその扱いが正しいと錯綜する思いのうちに、30分ほどで一冊をコピーしました。どちらの扱いが良いかは別として、情報量の差は二桁ほどです。

 昔は、本といえば、筆写であったことを思うと複写機は有り難いものですし、活字印刷術は発明中の発明というべきものでしょう。その有り難さを忘れて論文などコピーすると読み終えたような気になっているのは困ったことと、購入してきましたグーテンベルク聖書のファクシミリを眺めながら自戒しております。

写真上:The Main Reading Room of the Library of Congress
写真右:グーテンベルク聖書の創世記の第1ページのファクシミリ