職業訓練教材研究会

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シリーズ 第58回   自著を語る

能力開発専門学科 新井 吾朗

『大学だけじゃないもうひとつのキャリア形成−日本と世界の職業教育−』



 日本の若者が職業に就く経路として一般的と考えられているのは、大学を卒業して就職す
るというものだろう。しかしそれは、あたりまえなのだろうか。この春の高校卒業生の進路
は、大学等への進学 54.3%、専修学校への進学15.9%、就職15.8%、その他14%であった。つ
まり大学以外の進路を選び、職業に就く若者が半数はいるということである。また、高校生
の5%程度は中退しているし、大学進学者の10〜15%程度も中退している。大学を卒業しても
就職できない者が20%程度、就職しても30%程度は3年以内に仕事を辞めてしまうという状況
にある。そう考えると、大学で学習したことを活かして職業に就いている者は、全体の約3
割程度の少数派なのである。

 他方で、一部の大学や専修学校、職業能力開発施設以外の教育機関で職業能力を形成する
機会はない。それなのに日本の労働者が優秀であるのは、企業が採用した人材に対して行う
OJTと呼ばれる企業内での教育による。これが、学校卒業者の職業能力を形成する機会と
なっていた。しかし現在の就職が厳しい状況の中で、学校卒業時に就職できなかった若者に
は、職業能力を形成する機会がない。これは、日本の学校教育が大学への進学を前提とした
システムになっていることによる大きな弊害である。

 本書は、こうした現在の日本の学校教育に対する批判から企画された。日本では学校が職
業能力の形成を意識しないという常識が、欧州を中心とした世界でどれだけ非常識であるの
かを、諸国の教育制度と比較して紹介している。職業に必要な能力を習得する機会を得るこ
とは、本来、人の基本的な権利である。この認識からスタートして、学校教育や職業訓練か
ら職業への移行をどのようにデザインすればいいのか、関係者それぞれの立場でご検討いた
だければ幸いである。