(電気書院 2006年)

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シリーズ 第49回   自著を語る

建築システム工学科 橋本 幸博

「これからはじめる3種冷凍」



 フランスの昆虫学者アンリ・ファーブルは、本当は代数のことなど何も知らないのに、代数
を教えてほしいという青年の言葉を受け入れ、約束の前日に猛勉強して代数を理解すると素知
らぬ顔で青年に代数を教えたというエピソードがあります。私が第三種冷凍機械責任者試験の
解答例集の執筆を出版社から依頼されたときも、ファーブルのように山師的な承諾をしました。
 
  私は建築システム工学科で環境工学と設備工学を担当しています。そのため、熱の基礎と空
調システムについては理解していますが、冷凍機のメカニカルな構造についての知識は素人に
毛が生えた程度のものでした。冷媒の種類や冷媒と潤滑油の状態など冷凍機の中味については、
ほとんど知りません。私は、ファーブルと違って自分の知識のレベルを編集者に正直に打ち明
けて、ハッタリのある実直さで執筆を承諾し、編集者も私の山師的な能力を信用してくれまし
た。

 市販の参考書を眺めていると、初心者にはわかりにくい表現が多いと感じました。例えば、
p-h 線図(モリエール線図)の上に凸の曲線の内部は冷媒がどのような状態なのか、市販の参
考書ではわかりにくい表現ばかりです。要するに、冷媒が液体と気体の混合状態で、右に行く
ほど気体の比率が高く、左に行くほど液体の比率が高いということなのです。冷媒が、圧縮機、
凝縮器、膨張弁、蒸発器、圧縮機を通過していくときに、どのような変化が生じるかが理解で
きれば十分です。

 「これからはじめる3種冷凍」の構成は、セクション毎にひとつのテーマを説明するように
なっていて、いくつかのセクションをまとめてパートになっています。パート毎に、「チャレ
ンジ問題」が掲載されていて、パートの学習内容を復習するしくみです。最初にSI単位系の解
説をしてあります。それから、Part1では熱の概念、Part2では冷凍の基礎、Part3では各種機
器、Part4では冷凍装置とその運用という具合に進んでいきます。Part5とPart6では、冷凍関
連の法規について法令を長々と引用しながら、簡潔な説明をしてあります。

 この話のオチは二つあります。一つは、この本が上梓された2006年5月から数ヶ月後に、エ
ネルギー管理士(熱分野)の解答例集を執筆して欲しいと依頼されたことです。もう一つは、
11月に開催されたユニバーサル技能五輪国際大会の冷凍技術部門のスーパーバイザーになった
ことです。どうも、山師的な決断は、山師的な結果を拡大再生産するようです。

         (シリーズ第50回は、情報システム工学科 三 上  直 樹 先生の予定です。)