工芸・工業技術参考品の紹介
近代の工芸・工業技術品の歴史の幕開けに果たした品々


はじめに

図書館の1階エントランスホールと2階ブラウジングルーム(※)に「伝統工芸品」と「商品見本の試作品」がガラスケースに展示されています。「参考資料」として簡単な案内板を掲示していますが、利用者の方は日常あまり注目することなく見過ごしているかもしれません。実はこれらの展示品は大変貴重なもので、単に優れた工芸品のみならず、近代日本の工芸品・工業技術品そしてデザインの歴史の幕開けの役割を果たした品々なのです。
 そこで、「図書館だより」の第30号発行記念特集として、この「工芸・工業技術参考品」(以下「工芸等参考品」といいます。)の由来や変遷、周辺事情、その意義などについてくわしく紹介しましょう。このご案内を機に、図書館利用の際にこれらの展示品をゆっくりと鑑賞していただき、その意義など知っていただければ大変幸いです。
※30号記念発行当時。現在は図書館6階エントランスホールに展示中です。

工芸指導所の設立

産業工芸の黎明期の昭和3年(1928)に、商工省(現在の経済産業省)が「各地の工藝物産の改善と之が輸出振興の目的」のために仙台市に工芸指導所を設立しました。同所は「調査研究」「試験鑑定」「商品見本の試作」「傳習生及び研究生の養成」「講習会及び講演会」を行う、として調査研究の一環として各地から優れた伝統工芸品を収集し、また伝統工芸品に「科学のメスを入れ」て商品見本の試作を行い、人材を養成するなど工芸産業の育成・振興に努めました。

工芸振興運動の高まりと全国的な展開

やがて、工芸振興運動が全国的な規模となったため、商工省は昭和12年(1937)に工芸指導所の本所を東京の西巣鴨に移転し(仙台は東北支所)、収集品や試作品を展示する陳列館を設置しました。その後、同所は関西や九州などに支所を設け、盛んに商品見本を試作して各地で発表・展示するなど全国的に運動を展開しました。
 スタッフに優秀な人材を集め、一時期にはドイツの有名な建築家ブルーノ・タウトも加わりました。後にこれらのスタッフの中から工芸やデザイン界に優れた人材を多数輩出することとなり、各界で指導者として大いに活躍しました。
  また、初期のころから海外の工芸・工業品・意匠などの情報収集や研究を行ったことも特筆されます。その情報や研究は機関誌の「工芸ニュース」などに掲載しました。
 しかし、戦時色がいよいよ濃くなって、昭和18年(1943)には商工省が商農省となるなど同所の活動は停滞せざるを得ませんでした。

戦後の組織・業務の変遷と終焉

終戦の昭和20年(1945)に商工省が復活し、同23年には同省の外局として工業技術庁が設置され、工芸指導所はその組織下に置かれました。翌24年に商工省は通商産業省となり、同27年(1952)には工業技術庁は工業技術院に改称、同時に工芸指導所は産業工芸試験所(東京:本所・仙台:東北支所)と改称されました。
 工芸指導所の業務は再開されましたが、昭和23年ごろから従来の工芸品重視から急速に工業品のデザイン重視になりました。昭和27年(1952)には業務範囲を「工芸品、意匠及び包装」と改正し、電化製品や車、工業製品のあらゆるモノのデザインの研究・普及運動を行いました。その間、デザイン学校など教育機関が相次いで創立され、業界の団体も組織されました。こうして工芸産業の育成と振興の目的を達成し、また時代は科学技術へと推移していたことに伴い、国の政策の転換がはかられました。
 工芸指導所から工芸試験所に改称された同所も昭和42年(1967)に工業技術試験所となり、大きな足跡を残して工芸品・工業技術品・デザインの業務を終えることになりました。

伝統工芸品と商品見本の試作品の譲渡

 上述の事情で同所が所有していた伝統工芸品と商品見本の試作品は、昭和44年(1969)年に設立された製品科学研究所に移管されました。そして、工芸品・試作品は役割を果たしたことと当大学校の職業能力開発事業目的に合致することから昭和46年(1971)に同研究所から当大学校へ無償で譲渡されました。この無償譲渡には、当時の訓練部長(現在の長期課程部長)であった剣持仁教授の尽力と製品科学研究所の特別な配慮がありました。

工芸・工業技術参考品の価値と意義

現在、図書館に展示の伝統工芸品と商品見本の試作品は、正式には「工芸・工業技術参考品」といいます。木工・漆工・金工・陶工・竹工の5分野にわたり、約百点余りあります。いずれも卓越した技能と技術によってつくられ、創造性・機能性に富み、製品価値が高い貴重なものです。時代を経てもその‘用’と‘美’は今でもなお輝いています。近代日本の工芸品・工業技術品の歴史に大きな役割を果たしたこれらの品々は、さらに価値を増すことでしょう。
 工芸等参考品を図書館に展示しているのは、当大学校の主要テーマである「モノづくり」のために図書資料と実物を一体化してより効果的に利用できるようにしたものです。人間国宝などの名工たちによって命を吹き込まれた名品から多くのことを学ぶことができるでしょう。図書館の利用者、特に学生諸君はこの趣旨を踏まえ、展示品を鑑賞していただきたいと切に願っています。
 総合大図書館の今後の方向として、図書資料と実物一体化がさらに充実することが望まれます。
 なお、図書館所蔵の工芸等参考品うち、金胎花器など11点を国立科学博物館(東京・上野公園)に長期貸出中のほか、各地の美術館・博物館からの要請に応えて工芸品等を貸し出しています。


【参考文献】

「工藝指導」・「工芸ニュース」商工省工芸指導所
 「産業工芸指導所三十年史」・「産業工芸指導所四十年史」工業技術院工芸試験所編
 「製品科学研究所五十年史」・「製品科学研究所六十年史」工業技術院製品科学研究所編
 「物質工学工業技術研究所百年史」通商産業省工業技術院編

※1 東北工業技術試験所は平成5年に「工業技術院東北工業技術研究所」に改称、現在に至る。
2 製品科学研究所は平成5年に化学技術研究所等と統合し「工業技術院物質工学工業研究所」となり、 現在に至る。

[有田焼・花器 柿右衛門] [打込象眼花器] [桐硯箱]
ありたやき・かき かきえもん
有田焼・花器 柿右衛門
うちこみぞうがんかき
打込象眼花器
きりすずりばこ
桐硯箱
[朱塗飯櫃] [変塗櫃] [千筋文食籠]
しゅぬりめしびつ
朱塗飯櫃
かわりぬりびつ
変塗櫃
せんすじもんじきろう
千筋文食籠